「ねぎって何だか地味だよね。」「年中スーパーに鎮座している薬味的な野菜でしょう。」
そんなイメージは、ヒューと木枯らしと共に吹き飛ばしていただけると、野菜好きとしては願ったり叶ったり。
あなどるなかれ、美味しくて栄養満点。その上、お財布にも嬉しい旬の冬野菜の力を…ということで、これから寒さを味方につけて、甘さのピークを迎える長ねぎの魅力を色々な角度からお伝えします。
実は長ねぎの白い部分は茎ではなく、葉っぱなのはご存知でしょうか?
ねぎの茎は、根っこの短い部分のみ。ねぎが伸びてきたら土寄せして埋める、という作業を繰り返すことで、土の中に埋まった葉が太陽に当たらないまま白く美しく育つ、という訳です。
一言でねぎと言っても、根元の白い部分である葉鞘が長い長ねぎと、緑の部分が多い葉ねぎに分けられます。
長ねぎは関東地方以北で育てられ、東日本では 千住ねぎ系、北陸では加賀ねぎ系が多く流通。関西地方以西では主に葉ねぎが栽培され、京野菜の九条系が多く出回っています。
現在はどちらのタイプも全国的に流通され、楽しめるように。
ねぎの主産地は東京近郊の千葉、埼玉、茨城で総生産量(令和2年度)は441,100t(概数)となっています。
F1品種の根深ねぎがメジャーですが、群馬の下仁田ネギや山形の平田赤ねぎなど、地方品種も根強い人気があります。
すでに8世紀には日本に伝わり、奈良時代の歴史書「日本書紀」にも、その名が記されているほど。古くから私たちの暮らしに馴染み、全国津々浦々、老若男女に愛され続ける日本人が大好きな野菜、と言っても過言ではないでしょう。
順位 | 都道府県 | 収穫量 | 構成比 |
---|---|---|---|
1位 | 千葉県 | 56,900 | 12.9% |
2位 | 埼玉県 | 50,600 | 11.5% |
3位 | 茨城県 | 49,000 | 11.1% |
4位 | 北海道 | 22,000 | 5.0% |
5位 | 群馬県 | 19,600 | 4.4% |
データ:農林水産省「作況調査」(令和2年)
通年市場に流通し、見かけないシーズンはないほどお馴染みの野菜ですが、そもそもねぎの故郷は中国西部やシベリアの寒冷地と言われており、寒さは大得意。冬空の下で育つ長ねぎは、寒さが増してくると葉が肉厚でしっかりと巻いて太く、甘く、味が乗って非常に良質です。
味わいの旬は12月~2月の間。
12月頃の旬の走りは繊維が細くて柔らかく、みずみずしい食感。香りや辛みをより楽しめるので、薬味やサラダなど生で楽しむのもおすすめ。盛りの1月頃は風味と食感のバランスが良く、価格もお手軽、栄養価抜群のベストシーズン。名残を惜しむ2月頃は繊維が太く巻きがしっかりと強く、辛みよりも甘みやコクが増すので、煮込み料理などにもってこいの美味しさです。
長ねぎは白い部分がみずみずしくツヤがあり、境目が硬く締まっていて、白と緑がはっきりした淡いグリーンの葉のものが良品。ふかふかして柔らかいものは、中に砂や土砂が入っているかもしれないので避けましょう。
傷んだ葉はすぐに取り除き、新聞紙に包み風通しの良いところに立てて保存するか、緑と白の部分をカットして、それぞれラップに包んで野菜室へ。また、色々な料理に活用できる斜め切りにして冷凍しておけば、凍ったまま使えて便利です。
緑と白の愛らしいコントラストが特徴の長ねぎは、栄養価でも優秀なハイブリッド野菜。
緑色の葉は"βーカロテン"を多く含む緑黄色野菜に分類され、身体を錆びつきにくくさせる抗酸化作用の高さも魅力。また、骨を強化する"カルシウム"や造血作用がある"葉酸"も含みます。
白い部分は淡色野菜ですが、抗菌作用がある辛み成分をたっぷりと含むのが特徴。
にんにくやにらなど、ネギ属の仲間に含まれる、特有のツンとした刺激のある香りは"硫化アリル(アリシン)"という成分。交感神経を刺激して体温を上昇させ、血行促進・抗酸化作用・消化促進などの働きもあります。また、刻んだり加熱調理をすると"ビタミンB1"と協力して糖質をエネルギーに変え、疲労回復を助ける効果も。
余談になりますが「風邪をひいたら、ねぎを首に巻いて治せばいいのよ…」というおばあちゃんの知恵袋も、この"硫化アリル"の優れた殺菌力の恩恵にあずかろうということだったのでしょうか?
医食同源、私はどちらかと言えば、ねぎをたっぷり加えた熱いお味噌汁を飲み、風邪を治したい派です。ちなみに"硫化アリル"は、揮発性&水溶性なので食べる直前に切る、水に晒しすぎないことで栄養を無駄なく摂取できます。
冬のからだの救世主、長ねぎを様々な調理法で食べることで、この冬を健康的に乗り切りましょう。
部位や切り方によって、変幻自在に味わいを変えることができる、長ねぎの調理法をまとめてみました。
まずは切り方について。
押し切りか、引き切りか?繊維に沿うか、断ち切るか?によって、ねぎの美味しさの引き出し方が変わるんです。
切れる包丁でねぎを切れば、表面がツルッとぬめりも出にくく、口当たりも抜群。包丁を良く研ぐのも、大切なポイントです。
ではさっそく包丁を入れて、長ねぎを4つに解体してみましょう♪
まず大きく分けて、①緑の部分と白い部分。
そして白い部分は、②分岐している部分③真ん中の部分④根に近い部分と、さらに3つに分けられます。
美味しさを引き出すカットができたら、あとは火入れ!
基本はじっくりと蒸し焼きにしていくと辛味が甘みに変化し、とろりとした食感に。強火でさっと火を入れると、ねぎの水分が出ないのでシャキッとした食感を楽しめます。
また炒め物などに使う際に、火入れのために、さっとレンジ加熱しておくのもおすすめ。茹でたり煮たりするのと違い、電子レンジでの加熱は野菜が水に触れずに調理できるため、先ほどお伝えしたねぎの最大の機能性成分"硫化アリル"のように、水に溶けやすい栄養を失いづらい調理法といえます。
鍋シーズンになると、食卓に当たり前のように登場していた長ねぎ。
薬味的に使われ、ピリッと見る人を惹きつけるバイプレーヤーにも、はたまたねぎの丸焼きやねぎま鍋のように甘さとコクのある旨味で、私達を虜にする主役にもなり得る…まさに名俳優みたいな魅力的な野菜。
これから冬本番。皆さまが余すところなく長ねぎを食べて、美味しく、楽しく、元気に過ごせますように。
筆者
土田 美緒
料理研究家/野菜ソムリエプロ/調理師
レストランの厨房に立ち日々食材に触れながら、「Enjoy Vegetable!おいしく・楽しく・続ける」の活動コンセプトのもと、野菜や果物の摂取量の底上げが体と心の健康を保ち、社会の良い循環を生むと信じて料理教室、レシピ提案、実演販売など幅広く活動中。
さっと気軽に作れてお酒がすすむ野菜のおつまみ【酒菜—さかな】の紹介や、お酒×野菜のペアリング提案を得意とする。